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2008VTシャンパーニュは美味しいのか?

鳴り物入りで良いVTと評される2008年VTについて、色々言われている評価と実際の味わいに乖離があるので、調べたり考えたりしてみた。

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ボランジェ08グランダネ 酸味主体の味わい


1. 寒い天候

2. 酸が主体の味わい

3. 今美味しいシャンパーニュ

4. 将来美味しくなるタイミング

 

 

1. 寒い天候

2008年は非常に冷涼で、ベト病、ウドンコ病が蔓延した年。9月の収穫直前だけが良い気候だった。

シャンパーニュ地方 (2008)

発芽タイミングの春~6月は雨が多く(部度病が発生し)、日照時間も少なく、生産量に影響する発芽の数に悪影響を与えている(2008年のフランス全体の収穫量は2007,2009年より1割少ない)

成長タイミングの夏は、7月は好天だったものの、8月は日照時間が僅かで雨も多かった。そのため成長は例年よりも小さかった。

収穫タイミングの9月は好天で、暑く乾燥した気候が続き、高品質な収穫を迎えている。

 

総合して、品質は良いが生育は不十分で、選果は難しい年だったののかなと想像している。



 

2. 酸が主体の味わい

そうした天候を反映して、酸味は高くなったが、果実味が弱くなったVTというのが現在色々飲んでみた印象。

BdBは水で薄めたレモングレープフルーツ水のような印象もある。

ドサージュ抑えめなトレンドも悪影響してる気が。

先行指標として飲んでいる、ブリューノ・パイヤールのコトーシャンプノワは完全なレモン果汁ストレートで、酸味好きの友人ですら「酸っぱい」とのコメントだった。

BdNはかなりクリアでタイトな味わい。

正直なところ2008年の多くのシャンパーニュは、今飲むには酸が主体でボディが弱い印象だ。

冒頭のグランダネ、モエ・シャンドン グランヴィンテージ、クリスタル、ドゥラモットBdBなどなど、今飲むのは厳しい。

 

 

 

3. 今美味しいシャンパーニュ

普段はぽっちゃりしているタイプの味わいのシャンパーニュが、丁度今はバランスがとれていて美味しい。

幾つか銘柄を挙げると、

・2008 ドラピエ サンドレ PN55Ch45 So2少なめが好影響。色が濃い。

・2008 テタンジェ コレクション セバスチャン・サルガド PnCh半々 ふだんややぽっちゃりしてる構造。

 

・2008 ジャン・ヴェッセル グラン・クリュ プレステージュ PN70Ch30 重さと酸味の調和

mathusalem.jp



このセオリーに反して例外的に美味しいものが1本あり、それはドンペリニョン2008レガシーだ。

 


 

恐らく、レガシーだけは多くのリザーヴワインと樽によって味わいの重みと複雑さを与えられており(もしくは相当なバレルセレクトをしている)、厚みと酸味のバランスが取れたゴージャンスな味わいが今も、そして将来も楽しめる。

通常VTについてはまだ飲めていないが、聞いている限り例年通り酸味主体の印象。

 

他VTについて言うなら、2012は収穫量は少ないが成長と品質は素晴らしいとして、BdNやmixやBdBといった種別問わず非常に素晴らしい味わいが多い。

最近テイスティングして美味しかったシャンパーニュの殆どは2012年だった(テタンジェのミレジメや、アヤラBdBなど)。



 

4. 2008が将来美味しくなるタイミング

では今飲んでもいまいちなBdBや酸味の強いミックス系が何時美味しくなるかというと、2030年前後かなという印象。

(生産者も熟成が必要と判断したので、2009を2008より先にリリースしたのだろう)

2008に近い味筋の1996については、この2016年の記事が参考になる。

 

vinicuest.com

 

最近飲んだ1996 アンドレ・クルエ ミレジメ(Pn80Ch20?)は程よい熟成感がありつつも酸が非常にフレッシュで、2000年VTのR.D.かと思うような味筋だった。

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サンプル数は少ないが、こうした印象からすると、熟成により厚みが出てくると酸味との調和が取れ、熟成感と酸の両立する素晴らしい味わいになるのではと考えている。

 

なお、秋頃にMGのみでリリースされるサロンは、恐らく2050年頃にそのピーク(今の1980年代の味わい)を迎えると思う。

悲しいことに、偉大なワインの寿命は長く、我々の寿命は短い。

www.winereport.jp