結論;
・モダンアートと同じで文脈を知っていないと、よく分からない
・新しいアイデアと、新しい価値は同一では無い
・文化を創る難しさ
僕の前提;
・クラシカルフレンチ大好き
・美味しい料理作れる、鮨握る。
・ワイン沼底派
お店の文脈
モダン系料理はあまり好きでは無いので基本的に避けているのだが、定点観測はしておきたいのと機会があったので、INUAにお邪魔してきた。
結論としては、他の多くのモダン系レストラン同様に、美味しく無い、しかし一部は多少新しいといった印象で終わった。再訪は無い。
モダン系料理の話は、調理方法の文脈から始まるのが筋だと思っている。
ざっくりいい加減な話をすると、フランス革命で貴族に使えていたシェフ達=クラシカルフレンチが街でレストランを出すようになり、その後1970年頃からヌーベルキュイジーヌということでより素材重視の軽やかな料理への指向があり、1990年頃から分子ガストロノミーとして新しい科学的調理方法の開拓が行われている。
分子ガストロノミーはエル・ブジが有名で、乱雑に言えばその食材の要素を取り出すような調理方法という言い方も出来る。
近代はローカルな料理・素材への見直し(グローバルで見れば取込)が進んでいて、あるレストランの主観からすれば、新天地を開拓してその土地の食材と調理方法を知り、それを自分の持つ調理方法を以て新しい料理を作り出す、という流れになっている。
INUAは世界一のレストラン50(英国のメディアによる賞、モダン系が高く評価される)の1位に3回輝いたNOMAのヘッド・シェフが、日本の角川の招聘によって出来たレストラン。
とりあえずこの辺がファクトベースだったり、好意的に書いている記事。
KADOKAWAがレストラン界に革命を起こす。
https://r-tsushin.com/feature/movement/shokunochikara_inua.html
「INUA」ガストロノミーの極 最先端の北欧キュイジーヌに化身する和の食材
https://intojapanwaraku.com/travel/39773/
(この記事と半分くらい同じメニューを食べた)
つまるところ、最新の調理器具等を用いて、日本のローカルな食材・調理方法を取り入れ、「新しい」料理を作るのがINUAの特徴となる。
モダン系の問題点
そしてモダン系によくありがちなことに、味はお粗末である。
比較的素材の味がそのまま出ているプラムレザー、白トリュフと蟹(これはモダンでは無い)あたりはそれなりに美味しいが、それ以外は「新しい調理法や食材を食べられるレベルに仕上げました」というレベルである。
松ぼっくりが食べられるのは驚異的だが、ハーゲンダッツのクッキー&クリームを食べればいいのでは?
舞茸をスモークだのなんだの捏ねくり回して、松の木と昆布の出汁に沈めて、なんか茶色くて旨味がある、食べられなくは無い味にするよりも、新鮮で水分のある舞茸を天麩羅にした方が10倍は美味しい。
また、僕の食べたINUAのメニューは全体的に発酵を多用していて、しかしそれが良い結果に結びついている印象は無かった。
鮟肝は良い物を適切に調理すれば臭みなどなく、凍らせるより旨味がある。白海老は麹のケーキでなく鮨として握った方が美味しいし、穂先の筍に朝堀り筍の中心ほど味は無い。
と、こんな事を書きつつも、モダン系料理で美味しい料理は1%程度の確立で遭遇することがある。
NARISAWAの金華豚のコンソメ・ラングスティーヌがそうだった(コンドリューとのマリアージュも素晴らしかった)。
つまるところ、モダン系料理は基本的には新しく考えた料理を試す場であり、食べる人は美味しい物を食べに行くのでは無く、第一次選考の選考委員としての気構えで伺うのが正しいと考えている。或いは、食べた料理の先を想像することを楽しみに行くのか。
時には、エスプーマや和牛のように、世界中のレストランを席巻するように広まる調理法や食材と、いち早く出会えるかもしれない。
ついでにワインの問題
余談程度の話にするが、ペアリングのアルコールは国産ワインと日本酒が多かった。
グレープリパブリック、小布施ワイナリーは国産ワインの中ではまだ美味しい部類が、同価格帯ではよりよい海外のワインのチョイスがあり、マリアージュが特段良かった訳でも無い。
新政の亜麻猫、醍醐のしずくは、なるほど今時の日本酒で美味しいが、ペアリングはそれなりで、これに(均等割で)1杯2000円の価値は無い。
オーストリアのビオ系ピノブランはそのままビオの味、ドメーヌ・ヴァレットはそれなりだが、どちらも味の割に割高でわざわざ選ぶ理由が無い。イタリアやコート・ドールを外すことで意外性を出したいのだろうか。
新しいものを見せたいのなら、タイ・インド・中国といったそもそもワインを作っていると知られていないレベルのものを。
味であれば、この価格帯ならポルトガル・スペイン・南ア・チリを主体にした方が良い。甲州は価格帯的にほぼ全てを選べて美味しい物がきちんとあるので、無国籍なグレープリパブリックや国際品種の小布施より、距離感と味が良い。
モダンとは?
この手のモダン料理の問題点は、シンギュラリティやティッピングポイントやイノベーションを探すことに夢中過ぎて、すぐ隣にあるひたすら積み重ねられた基礎の上にある物が見えていないことだ。
和食であれば、例えば鮨のネタの仕込みプロセスはかなり複雑化している。
おつまみのアンキモ、車海老の握りなど、良い店では以前からある料理が全く違う物になっている。
こうした改善は、一見小さくはあるが、確実にその素材の本質に近づいており、非常にモダンなアプローチと言える。
見た目がモダンしていないモダン料理が、見た目がモダンしているモダン料理より優れていることは、極めて良くある。
また、所謂モダン料理レストランは、そのメニューの揺らぎ故に、最上の食材が回ってこないため、その食材の本質から遠ざかることが多い。
異世界転生
しかし、美食礼賛に書かれているように、新しい探求をすることで新しい食材や調理が見つかり、喜びが増えることは明白なのだ。
ラノベの”異世界転生”というネタがまさにそれで、それをきっかけに新しい地平が開けることがある。
モダンは”次の”異世界転生を探して、試行錯誤をしていくものなのだ。
という訳で、モダン系という最前線領域は、新しい文化を生み出す為の揺り籠であり、つまりなろ・・・もといカクヨムである(政治的配慮)。
INUAに行こうという人は、映画のSAOを見に行くのでは無く、カクヨム新着を読みに行く気持ちで行って欲しい。
そこには”経験したことが無い何か”を知ることが出来るかも知れないし、いち早くそれを知ることで「この作品はワシが育てた」とドヤることも出来る。
もちろん文化は俗なものも素晴らしいので、好みが合わない人は牛肉に雲丹をぶち込んで楽しめば良いだけの話だ。
賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求 ~愛弟子サヨナのわくわく冒険ランド~ (電撃文庫)
- 作者: 有象利路,かれい
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2019/06/08
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
あ、あとですね、プラムレザーシートの背景を蜂の巣じゃなくて、もっとこうK社の最適コンテンツを配置すると、盛りつけも立体的でプレゼンテーションもCOOLな演出になると思うので是非!!!!