※酷い話です
過去に予想したように、ブルゴーニュが値上がりをした。
しかし値上がりは予想以上の幅で、従来頑張って飲めていたブルゴーニュワインは今後相当頑張らないと飲めなくなった。
今回の値上がりは、文化としてのブルゴーニュワインが終わる可能性を秘めている。
もちろん、新しい村や生産者を開拓することで、あの美しいピノとシャルドネを求め続けるのだが、トップ生産者の欠片に触れることすら困難な時がすぐに訪れるだろう。
そして生産量と流通の事情により、かつて当たり前に手に入っていたシャンパーニュが手に入らなくなった。
市場を支配していたモエ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、ボランジェを喪った業者は次のシャンパーニュを探し続けているが、これらの生産者の穴を埋められるような生産量を持つ生産者はいないので、ドミノ倒しのように名前の知れているシャンパーニュから売切れて行っている。
こうして、従来でもハードモードだったブルシャンは、今後ヴェェェェェェェェェリーハードモードになってしまった。
有名で素晴らしいブルゴーニュを飲みたければ、飲み物の対価としては正気を疑われる金額を払うことになり、そして良いシャンパーニュは表から消えていく。
「仕方が無い」という事はできる限り減らしていきたいが、これは決まってしまった未来だ。
そして、この数年目立ちつつあった、ソムリエとお客様=サービスする側とされる側の経験格差の拡大はこれでどうしょうもなく広がることになった。
少し話を変えて、高度に発展した現代社会において、僕らは様々な専門家のサポートを受けて生活している。
iPhoneが壊れたら、それを直せるApple/修理業者に持っていき、自分では難しい技術的サポートを受けてそれに対価を払う。体調が悪くなったら、病気に詳しい人=お医者様にかかって、治療方針と薬を貰う。
こうしたサービスは専門性に対して対価を払っている。
さて、ソムリエという存在がいる。
ソムリエはワインの知識に詳しく、ワインのサービス技術が高く、レストランでワインを指南してくれる頼もしい存在である。
ワインの産地や品種、そしてその魅力の説明をしてくれるソムリエは、その資格が成立する程に専門家なのだ。
しかし、その専門家という立ち位置は、既に危うい状態になっている。
ワインの価格高騰により、既にブルゴーニュ・シャンパーニュは大半のソムリエの給与では手が出せるものではなくなってしまった。
また、フレンチ・イタリアンでペアリングが流行した結果、ワインの種類を飲むことも中々難しくなってしまった(しかも価格・味合わせの為に日本酒も取り入れていて、ますます種類が飲めなくなった)。
もちろんインポーター等の試飲会に行けば種類は飲めるが、大半は1万円以下の最新VTのワインなので、ブルゴーニュ・シャンパーニュの経験値は中々溜まらない。
そもそもランチをやっているから試飲会に参加できなかったりする。
僕は東京でかなり頻繁に試飲会に参加しているが、そこで見るいつもの面子は10人程度だ。時間帯を考えても、分け隔て無く多くの試飲会に参加しているソムリエは30人程度、自分の専門分野の試飲会に頻繁に参加しているソムリエが100人程度ではないだろうか(そして東京にレストランは15万軒ほどあるらしい価格帯・ジャンル的にその10%がワインを出すとしても、1.5万軒だ)。
さて、価格帯で話が変わるので、それぞれの話をする。
低価格帯:料理1.5万円以下のフレンチレストラン。
グラスワインは市販定価(上代)が2,000~8,000円程度のワインを使うので、きちんと試飲会に参加していれば良いワインの把握ができる。しかし、この価格帯のレストランはランチ営業もすることが多いと思われるが、日中開催される試飲会にどれだけ参加できるのだろうか。
また、ボトルワインのメインは市販定価が3,000円~1万円程度のものになるが、それはどうやって選ぶのだろうか?
ワインに詳しいスタッフがいない、若しくはやる気の無いソムリエは、概ねインポーターの言いなりになり、レストランには2~3社のインポーターのワインが並ぶことになる。
インポーターは生産者との契約で、ワインの味の善し悪しにかかわらずワインを買い続ける必要があるので、つまりそういうレストランはそういうワインリストになるわけだ。
※料理1.5万以下が低価格なのかという疑問は当然だが、ワインペアリング1万円と考えると、ボトル上代は8,000円程度となり、それは今やブルゴーニュ・シャンパーニュにとっては低価格帯だと理解する必要がある。
高価格帯:料理2万円以上のレストラン
当然グラスシャンパーニュが出て、良いワインと良い具合のペアリングを期待されるレストラン。
グラスワインは市販定価が5,000~15,000円程度のワイン。グラスワイン1杯5,000円でどのレベルが出るかがお客様から試される。
ランチ営業しない店も多いので、試飲に行くことは可能だが、試飲会で出てくるワインは価格帯が合わないことも多い。
そして最も悩ましいことに、お店に来るお客様で予算の上限が極めて高い人も増える。
店売り1本5万円のワインはそれなりに出るし、10万、20万のワインが出ることもある。
そうした高級ワインを、そのワインを飲んだことがないソムリエがなんとか説明し、サービスし、お客様からお金を頂戴する。
そうしたお客様は、その価格帯のワインを飲み慣れていたり、昔から飲んでいて詳しかったりするんので、そもそも殆どの店のソムリエより詳しい。
ソムリエが50才前後の、2000年代から良いお店で働きワインを飲んできているのならお客様より詳しいこともあり得る。しかし、その店で育つソムリエは基本的にペアリングのワインを飲み、良いワインへを飲むお客様への対応はシェフソムリエが行うのでそれをテイスティングできる頻度は少ない。
極端な例を挙げると、決められたペアリングと時々出るボトルワインで、月間50種類・5,000~2万円程度のワインを飲むソムリエと、数多くのワイン会に参加して月間240種類・2~40万円程度の熟成ワインを頻繁に飲むお客様という対比が発生している。そしてこれは時間と共に、さらに格差が拡大していく。
レストランのお得意様への対応というのは、自分がそのワインを飲んだことがない経験値の低い・専門性の低いソムリエが、良くそうしたワインを飲む経験値の高いお客様に、レストランであるからという理由でワインショップ価格の2倍の値段でワインを開けて頂き、テイスティングする機会を下賜していただく状態になっている。
それがソムリエという専門家の実情だ。
ソムリエは、それなりにワインにのめり込んだお客様が期待できるほどの専門家では無いのだ。
もちろん例外たる素晴らしいソムリエもいるが、それは例外に過ぎない。
あまりワインに詳しくないお客様の対応をするのならソムリエでも問題無いが、天文学的な価格のワインを飲むお客様こそが様々な意味でお店の売り上げの中心になることが多いので、無知でいる訳にもいかない。
さて、このままでは当然ソムリエという価値が無いので、これをどうするか。
ワインスクールは高くてソムリエの給与で行くには厳しいし、その時間を作れるソムリエも少ない。
(このスクール参加を支援しているスクールもある)
休日に良い店に行って勉強する? お客様に追いつくには速度が足りない。
ソムリエ仲間でワイン会をするのは悪く無い方法だが、月に何度集まる事が出来るのか。
仕事を辞めて毎日ワイン会に参加する? それが最適な方法だろう。ところで貯金は大丈夫?
フランスのレストランで修行する? シェフソムリエのポジションになれるのか。
ちなみに僕のやっているワインバーに就職すると、月に80種類は1万円前後のブルシャンが飲めて、さらに15種類前後のトップブルシャンが飲めて、ついでに試飲会参加でまあ500種類程度は飲める。
ご興味あれば転職どうぞ。
また、お客様に愛されて育てて貰うことを目指すのなら、ロリのヒモを読んだ方が良い。
君が辿る道はお客様に愛されるヒモなのだ。