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天才の支配する市場

私が一番好きな経済小説家、黒木亮の新作「巨大投資銀行」を土曜日の夜から読み続けて、先ほど読み終わった。
上下巻で合計700Pの今迄で一番長い作品だった。

トーリーは邦銀の内情に嫌気がさして米投資銀行に転職した主人公がさまざまなディールを重ねていくことで成長していく話である。ストーリーそのものは一応架空のものとされているが、普段銀行や証券と付き合っている時の印象と、著者が元国際金融万マンであることを考えると、そう外れているものではないと思う。

この小説で一番面白いのは、日本と欧米の意識の隔たりである。
銀行内の地位を絶対価値として、与えられた価値観のなかで生きる邦銀証券マン。
自身の価値を絶対価値として、自分の価値を貫ける道を探す外資系インベスター。
そして、マーケットは外資系インベスターによって支配される。
邦銀証券マンがくだらない足の引っ張り合いと批判に人生を浪費する中、外資系インベスターは金融工学を発展させ、新しいスキームを構築して市場に新たなる構造を持ち込むからだ。
愉快だったのは、元朝日新聞記者が文芸春秋に「ソロモンが裁定取引で市場を操作しているのは欧米ロによる日本経済支配の第一歩である」と記事を載せたときのトレーダーの反応、「俺たちの中で金儲け以外考えている暇人がいるのかよ」の一節だ。
新しいスキームである裁定取引やオプション、仕組み債などの多様なストラクチャード・ファイナンス、多くのM&Aオプションを知らない邦銀証券マンが外資系インベンスターに相手にすらされずに敗れていくのは、大本を質せばこの価値観の相違ではないだろうか。

余談として、最近仕組み債の組成を考えてたり、株のショートとロングを使った裁定取引を行っていたので、作中でこれらが出てきた時は興味深かった。
むしろ、そのスキームの駄目さに敬遠した仕組み債を買うような馬鹿企業が実在していたことに驚き。あんなん財務諸表の操作以外に使い道がないと思うのだが。
あと伝説のファンド、LTCMレバレッジ31倍は神。そりゃどんなに天才的なポートフォリオ持っていても、ロシアンポリューションによる激動は耐えられないはずだわ。LTCMや同様のソロモンの手法自体はすばらしいので、将来お金が溜まったら実践してみたい。

「巨大投資銀行」 上下巻 黒木亮
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