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雲の向こう 約束の場所

『雲のむこう、約束の場所』新海 誠 (著), 加納 新太 (著) (単行本)
>>「部活は毎日出来るけど、俺が飛行機を見たいって気持ちは今すぐでないと劣化しちまうんだよ。俺はそういうのがすごく嫌なんだ。いいから学校終わったらすぐ連れてってくれよ」
>>「あまり辛くなく生きて行くには、人間関係を深刻に受け止めないこと。流れていくものとしてやり過ごすのが大事なんだってこと。そういうことがわかってきたの。わかったら、何もかもがすごく楽になったわ」
>>「簡単だ、こんなのは。やるべきことがわかってて、あとは手を動かすだけなんだかからな。難しいのは、何をするのか決めることだ」
>>世界をデザインしたトータル・デザイナーがいるとしたら、青い空に白い雲を浮かべることを思いついたそいつは天才だ。
>>それは静かで、穏やかな、凪の幸せだった。(中略)ときおりぼくはその生活のあまりの穏やかさが怖くなることがあった。何かに突き動かされるような生き方ばかりしてきたせいだろうか。ゆるゆると、かわいていく感じを自覚することがあった。あるいは、アイスクリームが溶けていくような。
>>こうして僕は一人になった。みんな一人で歩く。ぼくだけじゃない。




 物語の好き嫌いは、その読者の主観によって判断される。一般的に高い評価を受けているものについて、新たな読者がそれを高く評価する可能性はあるものの、その評価は一般的な評価とは関係ないところで行われる(少なくともそういう評価こそが、その読者の真の評価であるべきだ)。平均と個別値の関係。
 だからこそ、他の人が普通とか、微妙とか、悪いとか評価している物語があったとしても、きっとその物語に通じる経験の積み重ねを持つ読者は、その物語を高く評価することになる。
 そして、深海誠の「雲の向こう、約束の場所」と「秒速5cm」は私にとって、特別に高く評価になる作品になった。
 Bru-ray或いはDVDで見たときはその映像の美しさに心を奪われがちだったが、小説という形で、その物語に集中して接したときに、どうして自分がこの2つの作品を何十回も見直したのか、腑に落ちた気がした。
 この2つの物語の、穏やかさと、静かさと、もどかしさと、そして手が届かないものについての記述は、どうしょうもなく、私の深い部分の共感を呼び起こす。


 このいろいろと決断しようとしている時期に、自分のために、あつらえたかのような物語に出会えて、本当によかった。